何故「この恋と、その未来。」は打ち切られてしまったのか? (版数で見る「この恋」シリーズの軌跡)
どうも東雲信者です。
先日の記事では、「この恋と、その未来。」という作品がどのような軌跡を辿り、無念の打ち切りになったのかを
「作者サイド」・「出版社サイド」
という観点に着目しまとめさせて頂きました。
本日は、恐らく通常の読者が誰も注目しない「版数」という観点からどのように「この恋」シリーズが売り上げが悪いと判断されたのか?
ということに関して私なりに考察したいと考えております。
恐らく、一読者でありながら出版物の版数まで把握しているのは私だけだと思いますので・・・
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さて、先日書いた記事では出版社がどのような販促活動を行って経営戦略をとってきたかを書かせて頂きました。
しかし、それが成功には繋がらなかった。
それは何故なのか?
それは市場に商品が十分に供給できていなかった、すなわち「増版」されなかった為に市場読者に効率的に作品提供できなかったからであると私は考えております。
1.「版数」とは?
一般的に、出版物はある一定量を印刷され発行し、出版物として市場へ提供されます。
問題となる誤植や、差し替え等がない場合初版と言う形で市場に多く出回ります。
「版数」とはすなわち、その出版物がどれだけの回数印刷されたのかを知る目安でありある種の「作品知名度」を図る手段としても活用することができます。
ライトノベルにおいては先述の誤植等の一部例外を除き、
「作品の売り上げが見込める」
上記の状況において増版されることが多々あります。
例えば、市場に読者が1万人いる。けれども、出版物は1000冊しかない。
残り9割の読者に提供するためには数を増やす必要がある、だからこそ増版する必要があるわけですね。
注意すべき点は、市場での欠品期間が長くなるに伴い購入意欲が減衰する傾向にあるということです。
買いたい作品が市場にない場合、他の店舗に行って見つかれば買うでしょう。
しかし、もしそこでも欠品していたら?
購入機会の損失は、売り上げの減少に直結します。
2.森橋ビンゴ作品における版数の軌跡
2013年度の「このラノ」ベスト10位入賞によって、「東雲侑子」シリーズの知名度は大きく向上しました。
完結作品であることと、全3巻であること。
それら2つの要因と、作品の面白さから2014年時点では
「東雲侑子は短編小説をあいしている」:第5版
「東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる」:第5版
「東雲侑子は全ての小説をあいしつづける」:第4版
という結果が確認されております。
もともと、一度に増版する量は他作品に比べて少ないでしょうが、それを考慮しても第5版まで増版されたことを考慮するとこの作品がどれだけ愛されたのかが少しでも感じて頂けると思います。
さて、上記内容は2012年5月30日に完結した「東雲侑子」シリーズが3年近く掛けて辿った軌跡でございます。
それ以降の増版が無いことと、「この恋」シリーズ刊行後の増版が確認できないことから市場への供給はある程度提供し終えた状況であることが考えられます。
それらを踏まえたうえで、新作となる「この恋と、その未来。」シリーズの刊行の軌跡を振り返ると以下のようになります。
2014年6月30日 「この恋と、その未来。 -一年目 春-」発売開始
「この恋」シリーズ連載開始
2014年11月29日 「この恋と、その未来。 -一年目 夏秋-」発売開始
同日「一年目 春」再販決定(公式BLOG様や独自の市場調査により確認)
2015年5月30日 「この恋と、その未来。 -一年目 冬-」発売開始
同時期頃に「一年目 春」三版を市場調査にて確認。
2015年10月30日 「この恋と、その未来。 -二年目 春夏-」発売開始
上記作品発売時期との間で「一年目 夏秋」再販を市場調査にて確認。
2016年5月30日 「この恋と、その未来。 -二年目 秋冬-」発売開始
これが、「この恋」シリーズが歩んできた版数の軌跡であります。
「東雲侑子」シリーズに比べ、「この恋」シリーズの版数の伸びが少ないというのが明確であります。
3.何故増版ができなかったのか?
増版ができないということはすなわち、「市場に商品がない状況を産み出す」ということであります。
しかし、増版するということは「絶対的な売り上げが見込める」という期待が無ければ増版に至るのは難しいということでもあります。
つまり売れなかった場合、在庫を抱えるリスクも同時に抱えるということです。
ライトノベルは一般的に、発売後2週間前後の初動で打ち切りか否かが決まる、などと言われますが、「この恋~」に関しては初動だけで言えば、そりゃまあ貴方、酷いもんです。
— 森橋ビンゴ (@Morihashi) 2016年5月30日
こちらの森橋先生の発言から、「この恋」シリーズの増版に踏み切れなかった背景が推察できます。
反面、前日の記事でも取り上げた通り「市場へのアプローチ」には出版社なりに努力してきた跡が見受けられます。
それでも、増版を行い不動在庫を抱えるというリスクから想定した市場への供給を十分に行えなかったのもまた事実であります。
この問題に関して、出版業界の今抱えている多くの問題が連鎖して起こったと考えております。
今一度、皆様の愛する作品について本当に作品のことを知っているのか?
自問自答してみてください。気付かないだけで無念の打ち切りと言う「作品の死」の足音が近づいているのかもしれません。
知らなかったで貴方の好きな作品は亡くなって良いのですか?
何度でも言います!失ってからでは遅いのです!
最後になりますが、私のようにいちいち出版作品の版数まで数えろなど申しません。
しかし、皆様に言いたいこと。
知ってください、今貴方が好きな作品がいる状況を。
作品世界を取り巻く出版業界を。
この記事をきっかけに、少しだけでも多くの方が好きな作品について考えて頂ければ幸いです。
貴方の好きな作品と、その未来。を迎えることを心より願って・・・